円錐角膜
当院では円錐角膜の眼へのハードコンタクトレンズ合わせが可能です。その成否には施設によってばらつきが大きく、熟練を要しますので、他院でつけ心地のよいハードレンズが見つからなかった方も、ぜひ一度ご相談ください。この病気と当院の治療方針についてご説明します。
円錐角膜とは
通常、角膜(くろめ)は透明なレンズですので、その表面の形は球状、または縦方向のカーブと水平方向のカーブが異なるラグビーボール状の形をしています(乱視の強い角膜の場合)。
円錐角膜では角膜の形状が特に中央部やや下方(または中央)が前に薄くなりながら突出し、尖った形状となり、上下対象の形状ではなくなってしまいます。また、突出した部分は厚さが薄くなっています。この状態では光を通過させ、一点に光を集めるレンズとしてはうまく機能せず、眼鏡でいくら乱視や近視の度を入れてもブレて見える状態になります。通常の眼鏡やソフトコンタクトでは矯正できないこのような乱視を不正乱視と言います。
頻度的な男女差について明確には言われていませんが、実際の外来診療では男性患者様のほうが割合として多い印象です。
近年、近視矯正手術の普及により、手術前の検査の段階で円錐角膜が見つかるケースが増えているようです。
※レーシック手術後に稀に発生する角膜拡張症(ケラトエクタジア)も円錐角膜類似の形状であり、対処も同様です。
円錐角膜の画像
↑中央部の青い丸で囲われた領域の厚みが周囲よりも薄くなっているのがわかります。
発症時期・経過
>中学生~高校生くらいからはっきり症状がでてくる場合が多いです。必ず両眼とも同時に変形してくるわけではなく、片眼だけが大きく進む事もあります。しかし最終的には両眼ともに円錐角膜であると診断できる状態になる事がほとんどです。10~20年かけてゆっくりと進行し、30代~40代頃に進行が止まる事もありますが、個人差が大きいです。
症状
初期には眼鏡でも矯正できる程度の乱視や近視が現れるだけですが、適切な度が変化していくため、やや頻繁に度数変更が必要になります。さらに進むと不正乱視のため眼鏡では視力1.0にも届かない状態になります。この時はハードコンタクトレンズにすると充分な視力を得られます。さらに進行するとハードコンタクトレンズとのフィット状態が変化してつけ心地も悪化し、再度合わせ直す必要が出てきます。
近視や乱視によって視界がぼやける事以外にも、まぶしさや光のにじみなどを感じる事もあります。
検査
角膜形状解析装置・角膜トポグラフィーと呼ばれる検査機器によって、角膜全体のカーブや厚みを計測します。
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角膜形状解析装置
当院では角膜形状解析装置を備え、円錐角膜自動判定プログラムを搭載したTMSによって、患者様の角膜の情報を詳細に測定する事ができます。コンタクトレンズの取り扱いが多い眼科の中では、これらの角膜解析機器と円錐角膜へのコンタクトフィッティング技術を備えている所はきわめて少数です。
どこの眼科にも置いてある気球や飛行機が中に見えるような機械の検査のみでは、角膜中央の約3mmのみの部位のカーブと近視乱視の度を数字で表すだけなので、軽度~中程度の円錐角膜は気付かれず、指摘された事が無かったという方もおられます。
円錐角膜の方の解析結果です。
眼の中央よりやや下方、突出しカーブの強い(尖った)部位が赤く表示されています。
(ご本人ご了承の上で掲載)
治療の基本 ハードコンタクトレンズ
角膜に原因のある不正乱視を矯正するのに非常に有効なのがハードコンタクトレンズです。ハードは表面の対称性が完全であり、病的な角膜とのわずかな隙間は涙が埋めてくれるため、角膜、涙、ハードレンズがひとつのレンズとして機能し、角膜の歪みを補ってくれるため、他の矯正方法では得られない比較的くっきりした見え方となります。
円錐角膜の方は長年ハードコンタクトレンズと付き合っていく事になりますが、継続的な使用にあたって、いくつか問題点があります。
まずフィッティングが難しく、サイズやカーブが合っていなければ異物感や痛みを感じやすい事。そして一般的に円錐角膜専用のハードコンタクトは値段が高い事です。
当院では開院以来20年以上にわたってハードからカラコンまで様々なコンタクトを扱っており、患者様の生活の中でコンタクトの紛失・破損といったアクシデントはしばしば起きていました。その際に一枚が数万円する円錐角膜専用レンズを使用していた場合、予定外の出費は大きなものとなります。
当院では過去には円錐角膜専用のレンズはなるべく使わず、通常の一般的なハードコンタクトを円錐角膜の患者様の眼にフィットさせる技術を培って参りました。そんな事が可能なのか?と思われるかもしれませんが、実際に当院を受診される円錐角膜患者様に対して、充分な装用可能時間、快適にお使いいただける装用感を、円錐角膜専用ではない通常の価格帯のハードコンタクトでも実現できております。これは角膜形状検査機器の充実と医師・スタッフ・コンタクトレンズ会社のスムーズな連携、長年の処方経験の蓄積がなせる業です。ハードレンズは少しでもサイズやカーブを変更すると全くの別物となり、つけ心地は劇的に変わります。ソフトコンタクトを間にはさむピギーバック法によってハード装用が可能になった方もおられます。
もちろん、ご希望があれば円錐角膜専用のコンタクト処方も可能です。最近では定額制プランで、費用の面での心配が少なくなってきました。定額制プランを解約される場合も、これまでのレンズを返却する必要が無いです。高額でこまめな度数変更もできず割れたら終わりな専用レンズよりも安心感があります。
当院では毎月、円錐角膜を患った新規の患者様にご来院いただいております。すでに大規模な病院でハードコンタクトの処方を受けた患者様の場合、きっとこれ以上のつけ心地のハードコンタクトは無いのだろうと、諦めておられる事が多いです。しかし当院では装用可能時間においても最高視力の点でも、すでに患者様がお持ちのレンズを上回る一枚が、見つかる事が多々あります。
● 他院で決められたカーブのハードコンタクトがどうしても合わなかった方
● ハードコンタクトがうまく合わず、もう角膜移植しか方法がないねと言われた方
● 特に眼の病気がなくても今のコンタクトレンズのつけ心地が悪く数時間しかつけていられない方
当院に一度ご相談下さい。円錐角膜を始めとした角膜変性疾患へのコンタクト合わせには、経験と情熱とねばり強さが必要です。初診のかたのフィッティングにはお時間をいただきますのでなるべく後の予定の無い日においでください。
新しい治療法 角膜クロスリンキング(他院)
日本ではまだ保険適応となっておらず国の保険は効きませんが、角膜クロスリンキングは角膜の強度を補強し、円錐角膜の進行速度を遅くする効果があるようです。進行を止める処置なので、病状の進行が無い安定期であれば適応とはなりませんが、年齢がお若い方では円錐角膜は徐々に進行(悪化)するため、進行を抑える治療は重要です。
近年ではその有効性にまつわるデータはかなり蓄積されていますが、まだまだ医療従事者の間で認知度が低いのが現状です。
※当院ではクロスリンキングは行っておりませんので、ご希望の場合は実施医療機関をご案内(または紹介状発行)いたします。ご希望の場合は初診来院前にお電話にてご予約が必要です。もちろん、実施施設を直接受診されても結構です。
より詳細なクロスリンキングの解説を行なっているHPがありましたので、患者様の利便性のためリンクさせていただきます。→遠谷眼科 (リンク先で円錐角膜の項目をクリックしてください)
治療の最後の砦 角膜移植手術
円錐角膜が進行し、ハードコンタクトレンズでも充分な視力が出ない状態になると、臓器提供された方の角膜を移植する、角膜移植手術も視野に入れる必要があります。
当院では角膜移植術は行っておりませんが、予約制外来にて角膜移植の適応となるかどうかの判断は可能です。移植の適応となった場合は角膜を扱う医師同士のネットワークにより、近隣の信頼できる角膜専門の医師をご紹介いたします。※移植に関するご相談の場合は事前に電話予約が必要です。
円錐角膜と付き合っていくために
円錐角膜治療について私がよく知らなかった時、調べていくととにかく治療に様々な方法があり、それぞれにメリットとデメリットがあり保険が効くものと自費のものがあり、整理はされておらず、医師にとってさえもわかりづらい印象がありました。
ひと昔前であればハードコンタクトを使い、それが何らかの理由で使えない状況になった場合は角膜移植へ進む、という比較的シンプルな道筋があったと思われますが、近年そこへクロスリンキングやスクレラルレンズといった治療が登場しています。保険適応になっていない項目も多く、選択肢が増えたことで患者様や角膜に詳しくない医師からすると、何をどう選んだらいいのかわかりにくい状況になっていると思います。
円錐角膜の治療の選択肢は自由診療と保険診療にまたがり、最適なハードレンズ合わせには、熟練した人材とある程度の時間、そして豊富なテストレンズが必要ですから、ひとつの病院が全部カバーできるという事はまずありません。
医師以外の眼科スタッフとの連携も欠かせません。それぞれの治療法を扱う医師が、病院の枠組みを超えて相互に連携をとる事が、円錐角膜患者さんの利益になると考えております。
当院はその中で、円錐角膜患者様へのハードレンズ合わせの試行錯誤を粘り強く行っております。
円錐角膜の眼へのハードコンタクトレンズ処方をご希望のかたは、ご予約は不要ですのでお気軽にご来院ください。当ページの文章を書いた医師の診察をご希望の場合は、事前にお電話でご予約ください。(水・金・土曜のみ)